エリート御曹司と愛され束縛同居
結局その後、早めに確認しなければ困る事案については是川さんの助言もあり、直接尋ねている。

意外にも丁寧にひとつひとつ答えてくれて、さらには家事と恋人役を引き受けてくれているのだから家賃は不要だとまで言われてしまった。

同居に必要な生活費、雑費についても負担するからと強引に押し切られ、そこまでしてもらうわけにはいかないと言い返すとかなり不機嫌になっていた。その理由がよくわからない。

最終的にその必要経費の一部を私が負担するという決着を是川さんに仲裁をお願いしてつけたけれど、やはり不服さを露わにされて納得ができない。


そんななか、私の九重株式会社への異動が正式に辞令として発表され、九月から着任する運びとなった。

なによりも驚き悲しんでくれたのは後輩の佳奈ちゃんだった。そして誰よりも羨ましがってくれた。


最終勤務日に開いてくれた送別会では、しっかり合コンを頼まれたうえに『噂の副社長に、私も会いたいです!』と紅潮した頬で叫ばれて、困り果ててしまった。

外見は極上だけど中身は噂とは違ってまったく王子様ではない、と即座に言いたくなる気持ちを必死でこらえた。

同居話も、ましてや恋人の振りをしているなんて口が裂けても言えない。


送別会も終わり、店の前で皆と別れて佳奈ちゃんと駅に向かった。可愛い後輩は最後まで別れを惜しんでくれた。

「じゃあ澪さん、プライベートで女子会をしましょうね!」

駅に着き、お互いのホームに向かう前に朗らかに言って、佳奈ちゃんはタイミングよくやってきた電車に飛び乗った。

反対側のホームから小さく手を振り、後輩を乗せた電車が遠ざかるのを見つめていた。

八月末の夜は蒸し暑く、生ぬるい風が薄手のワイドパンツの裾を揺らす。

しばらくして大きな音と共にホームに入ってきた電車に乗り込み、帰路についた。
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