エリート御曹司と愛され束縛同居
電車を降りて改札口を抜けた時、バッグの中でスマートフォンが振動した。画面に表示された名前は副社長だった。

「なにかあったんですか?」

今は午後十一時を過ぎた頃だ。

こんな時間に連絡があるなんて珍しい。確か今日は取引先と会食だと言われた記憶がある。もう終わったのだろうか。

『……お前、今日送別会か?』

問いかけに答えもせず、唐突に尋ねられて少し面食らう。低い声が機械越しに伝わってくる。

「そうですけど、どうかしました?」

『……なんで言わないんだ?』


なにを? 送別会の件を? なぜわざわざ言う必要があるの?


「どうして今日が送別会だってご存知なんですか?」

話がよくわからないので、とりあえず疑問を投げかける。

『是川に聞いた。もう終わったのか?』

外の喧騒が聞こえたのか、なぜかキツイ口調で問われる。

声がどんどん低く不機嫌になっているように感じるのは気のせいだろうか。

「はい、今改札口をでたところなので、もう少ししたら帰宅します。副社長は会食ですよね?」

『……まさか今ひとりで歩いているのか?』

「もちろん歩いていますよ」

私の問いかけを無視し、大きな溜め息を吐く。

『迎えに行く、待ってろ』

一方的に告げられ、通話が切られた。

その反応がよくわからず戸惑ってしまう。

駅からマンションまでは徒歩五分もかからない距離だ。人通りも多く街灯だってあるこの場所にわざわざ迎えに来る必要はない。
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