エリート御曹司と愛され束縛同居
慌ててバッグにスマートフォンを入れて走り出す。

迎えに来るだなんてきっとなにかあったに違いない。


気づかない間に私、部屋のものを壊していた? クリーニングに出すスーツを間違えた?


思いつく事柄を頭の中で検証しながら走る。


マンションのエントランスが見えてきた時、直ぐ傍に佇むひとりの女性の姿が見えた。

真っ直ぐな背中半分くらいの髪に華奢な身体つきのその人は、じっとマンションを見上げている。

オレンジ色の屋外灯にぼんやり照らされた横顔には思いつめたような表情が浮かんでいた。

身に着けている膝丈の白いワンピースに小ぶりのバッグを手にしていている姿は楚々としている。


このマンションの住人? それとも誰かを待っているの?


いくら人通りが多い場所とはいえ、こんな時間に女性がひとり、ずっと誰かを待ち続けるには不用心だ。

もしやなにか困っているのかと思い、声をかける。

「あの……」

そっと近づいて遠慮がちに話しかけると、女性は一瞬私を見て、慌てたように目を伏せ踵を返して、無言であっという間に走り去ってしまった。

警戒させてしまったのだろうか。

そんな考えを巡らせていると、背後から名前を呼ばれた。


「澪」


夜気を震わす低音に振り返ると、スーツ姿の副社長が立っていた。

ふわりと夏の夜風に長めの前髪が揺れる。

「副社長、今、ここに女性が……」

話し出すとなぜか厳しい表情を向けられて、長い指で私の右手首がつかまれる。

怒っているような顔つきに言葉が詰まり、続きを話せなくなる。
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