エリート御曹司と愛され束縛同居
なんでいきなりこんな子どもみたいな真似をするの? 


わけがわからない。幼馴染みを比較対象にする理由も不明だ。

「……遥さん、でいいですか?」

渋々呼ぶと、了承したとばかりにふわりと緩く表情を崩す。

その瞬間、胸をなにか強い力でギュッとつかまれたような気がした。

「澪、話し方も早くなおせよ」

表情に負けない甘い声でそう言って、腰から手を離す。ぽんと頭を軽く撫でて何事もなかったかのようにリビングを出て行く。

「おやすみ」

「……なんなの? 意味がわからない……」

力の抜けた私は熱い頬を両手で隠してその場に佇む。


あの人の行動理由がわからない。私の存在なんて厄介な居候、ただそれだけのはずなのに、どうして優しくするの? 甘い声で囁くの?


意識したりしない、勘違いなんかしたくない。

惹かれたりしないし、叶わない恋心なんて欲しくない。


今ならまだ大丈夫。

これは見目麗しい極上男性に不意打ちばかりされて戸惑っているだけ……そう何度も言い聞かせる。


この時の私は自分の気持ちを持て余していて、マンション前に佇んでいた女性の件をすっかり忘れてしまっていた。
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