エリート御曹司と愛され束縛同居
自室に引き上げるとバッグの中でスマートフォンが振動し、緩慢な動作で取り出すと表示されていた名前はずっと話したかった幼馴染みだった。

思わずスマートフォンを両手でつかんで画面をタップし、耳にあてる。

亜由美には止められていたけれど、やはりこの同居の件は報告しなければいけない。

勘の良い幼馴染みは、私が言わなくてもどこかから情報を仕入れてそうだし、今まで秘密がバレなかった試しはない。


「も、もしもし」

話したい事柄が多すぎて焦る。どこから話せばいいのだろう。

『澪、同居生活はどう?』

私とは対照的にのんびり話す幼馴染みのひと言に目を瞠る。その声と台詞に気づいてしまう。

「……知ってたわね?」

怒りを込めた剣呑な声で問い詰める。敢えてなにを、とは口にしなかった。

『落ち着けって、これには事情があるんだ。悪かった、説明するから怒るなよ』

焦って弁解する幼馴染みに気持ちを抑えつつ、説明を黙って聞く。

どうやら圭太の海外赴任は遥さんの関わっていた仕事の一部を引き継ぐものだったらしい。

副社長就任は以前から決定していたけれど、もう少し先の予定だったそうだ。

遥さんが社長より引き継ぎを任された新ホテル建設計画が予想以上に上手く纏まり、帰国を余儀なくされたという。

それならば副社長就任も早めようと話がトントン拍子に進んだそうだ。

この時点で既に圭太はアメリカに赴任していて、私は引っ越してしまっていた。
< 76 / 199 >

この作品をシェア

pagetop