初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
だって、今目の前にいる柊哉さんは、私のことを本当に心配して助けてくれている。

仕事で疲れているはずなのに、そんな気配は一切見せずに私の怪我だけを気遣ってくれて。

心から案じてくれている。

それなのに昔の恋人について問い質すなんて出来ない。

どんな言い方をしても、責めているか疑っているように取られるおそれが拭えないから。

それに真実を知ってどうするの?

柊哉さんの昔の恋人が池田さんだったとしても、彼女は既に退職している。この先私が関わる機会はないだろう。

はっきりさせなくても問題は起きない。結局私の自己満足なんだ。

何も知らなかった頃のように、柊哉さんと仲良く過ごすのがきっと一番の幸せだ。


「香子、本当にどうしたんだ?」

柊哉さんが眉を顰める。

「……何もないよ。久しぶりの仕事だったから少し疲れたのかも」

「それだけか?」

納得いかなそうな彼の声。私は「うん」と即答する。

柊哉さんはようやくほっとしたように、目元を緩めた。

「良かった。それなら薬を貰ったらテイクアウト出来るものを買って行こう。何が食べたい?」

「私は何でもいいけど、スープとサラダがあるから合うものの方がいいかも」

「そうだな」

何にしようか考えていると、受付で名前を呼ばれた。私の代わりに柊哉さんが窓口へ行き、薬を受け取る。

「帰ろう」

戻って来た柊哉さんが、手を差し伸べて来た。私を助けてくれる頼りがいのある大きな手。

怪我をしたのとは反対側の手を重ね置くと、ゆっくり体を引き起こされる。

この手で守るのは私だけにして欲しい。そう強く願う。

柊哉さんを愛している。彼の温もりを感じると満たされた気持ちになる。だから胸に広がる切なさが早く消えるといい。

過去なんて気にならない程、柊哉さんと幸せになりたい。

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