初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
私は手早く書類とノートパソコンを手にして、真田課長について総務部用のミーティングルームへ移動した。
真田課長は室内にコの字型に配置されているテーブルのドア近くの椅子を引き、腰を下ろした。
上司に下座を取られ困ってしまうが、突っ立ってる訳にもいかないので、不自然ではない距離の
椅子を選び着席する。
「最近、経営企画の進藤をよく見かける。仕事で問題でもあるのか?」
「いえ、社内手続きの問い合わせなどです」
いきなり進藤君の名前が出たことで、予想は当たったと憂鬱になった。
やはり真田課長の話は、小林さんと進藤君の件みたいだ。指導係として注意をされるんだろうな。
案の定、予想通りの言葉を告げられる。
「そうか。だが小林の私語が目立って来ているから、桐ケ谷さんも気にかけておいてくれ」
「はい。あの、苦情が出ましたか?」
「いや、でもいずれ出そうだから釘を差しておいた方がいいだろ?」
「そうですね」
少しほっとした。今から修正すれば間に合うんだ、良かった。
小林さんがトラブルを起こすと指導員の私の評価が下がる。
後々結婚を公表したときに柊哉さんの評判を下げる可能性もゼロじゃない。
だけど一番心配なのはそこではなく、マイナスのスタートを切ることになる彼女の精神面だ。プライドの高い子だし、会社を辞めたいと言い出すかも……。
「明日、彼女と話し合ってみます。もっと仕事に集中して、進藤君が来ても必要以上に話しかけないようにと」
「頼む。だが全否定する必要はないから、上手く話して欲しい」
「全否定、ですか?」
私の言葉はそこまでキツイものとは思えないけど。
「進藤と話すのは小林の自由だ。うちの会社は社内恋愛を禁止していない。あくまでその場の状況に相応しい言動をという話だから」
「はい、わかりました」
真田課長の指示に頷きながらも、頭の中には“社内恋愛”というキーワードでいっぱいになった。
こんな時なのに、池田風花さんを思い出してしまったから。