初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「小林さんは先日退職した池田さんの業務も引き継いでますので、私の業務全ては難しいかもしれません」

「ああ……そうだったな」

気のせいかもしれないけど、“池田さん”と言ったとき、真田課長の反応が大きかったように見えた。

つい真田課長の様子を凝視していると、怪訝な表情で問われた。

「どうかしたのか?」

「え?」

「随分見つめられている気がしたけど」

そう言う真田課長も私を観察しているみたい。

「いえ……あの、池田さんから引き継いだ業務の件ですが、過去のデータに不備がいくつかあり、修正に時間がかる状況です。小林さんも困っています」

気まずさを誤魔化そうとしたせいか、告げ口のようになってしまった。言った側から後味の悪さを覚えていると、小さな溜息が聞こえて来た。

「彼女、体調を崩していて、退職前は集中力も無かったからね」

「体調を?……どこか悪かったのですか?」

「まあね。詳細は話せないけど」

真田課長が話をばっさり切ったから、追求は出来ない雰囲気になった。

でもモヤモヤした気持ちは残る。池田さんの退職理由は柊哉さんと関係があるのかな。聞く勇気もない癖に、どうしても気にしてしまう。

昨日割り切る決心をしたばかりだと言うのに、前言撤回のような思考が自分でも嫌になる……。

「もしかして、何か聞きたいことがある?」

その声にはっとして、俯いていた視線を上げる。

真田課長が依然として私の挙動を確認するようにこちらを見ていた。目が合っても彼の視線は定まり動かない。

居心地の悪さを感じなら、私の方から目を逸らした。

なんとなくだけど、真田課長は私の聞きたい内容を察しているのではないかと感じたから。

私の態度で気づいたのかもしれない。とは言え、やはりストレートには聞きづらい。

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