初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「気になるのなら直接本人に聞いた方がいい」
「はい。考えてみます」
そうは答えたものの、聞けるものならとっくに聞いている。私ははっきり問い質すのが怖い。柊哉さんが望む答えをくれると確信できないから。
そして望まない答えなら、今の穏やかな関係が崩れてしまうような気がしている。
「これは上司としてではなく、柊哉の友人としての言葉だが」
真田課長の前置きに、私は眉をひそめた。
「あいつをもっと信用して心を開いてやってくれ」
「……え?」
私は唖然として目を見開く。
言われた意味が分からない。信用してやれて、心を開けって……まるで今の私がそうじゃないみたいに聞こえる。
釈然としないまま、真田課長との打ち合わせを終え、席に戻った。
残っていた仕事は真田課長が半分引き受けてくれたはずなのに、頭が上手く回らないせいか時間がかなりかかってしまった。
完了したときには、八時半を過ぎていた。
荷物を纏め席を立つ。真田課長はまだ退社していないはずだけれど、席に姿は無い。
ガランとした空間相手に小声で「お疲れさまでした」と呟き、フロアを出た。
なんだかすごく疲れた。気持ちの問題なのかもしれないけど、怪我をした指先までもがズキズキ痛みだした。
憂鬱な気分でエレベーターホールで立ち止まる。
一階から上がって来たエレベーターに乗り込もうとすると、「桐ケ谷」と声をかけられた。