初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
ぼんやりしていて気付かなかったけれど、降りて来たのは進藤君だった。

「あ……お疲れさま」

彼は挨拶周りに行っていたようで、ビジネスバッグとは別に、手土産が入っていたであろう大きな紙袋を手にしている。

「お疲れ。残業?」

「うん、ちょっと手間取って」

「大変だな……あっ、そうだ。帰るところ悪いんだけど、これ受け取って貰えないか?」

進藤君はバッグから青のクリアファイルを取り出す。うっすら見える中身は書類だけど、内容までは分からない。

「なんの書類?」

「総務の担当に渡して欲しいって預かって来た」

詳しく聞くと、一緒に外回りに出た経営企画の社員が、彼に書類を預け直帰したらしい。

中身を確かめると、幼稚園の入園証明書類だった。
単身赴任で異動した社員の家族の学費などは、会社がある程度の金額を負担している。

「……提出期限、去年だね」

「そう言えば総務から急かされているって言ってたな」

「そうなんだ」

私は小さな溜息をはいた。

こういった手続き処理は後回しにされることが多い。どうしても客先に提出するデータなどの作成が優先されるのだ。

申請しないとお金が入らず困るのは自分達なのに、社内だから融通を利かせられると思っているみたい。

またかと、がっかりしながらも、総務のフロアに戻り担当者の机にあるトレイの一番上に置く。
明日、朝一で声をかけよう。

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