初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「悪いな」

後ろからついて来ていた進藤君が気まずそうに言う。

「進藤君のせいじゃないよ。清算の担当者から本人にクレームが行くかもしれないけど」

「そっか。まあ怒られても自業自得だな」

進藤君はそう呟くと紙袋の中をごそごそと探り、小さなテープを取り出した。

「これ桐ケ谷にやるよ。新設ビルに入った会社の商品なんだけど、便利だって売れ筋商品らしい」

「え?……あ、これ、剥がせるやつだ」

見た目地味な普通のテープだけれど、紙に貼ったあと簡単に付け替えられる便利なアイテム。いくつあっても嬉しいものだ。

「ありがとう。でも進藤君は使わないでいいの?」

「俺はいいよ。使わないだろうし」

「そう。じゃあ遠慮なく」

早速、自分の机の一番上の引き出しに仕舞う。

「一個しかないから、あの子には秘密な」

「あの子?」

「小林さん、桐ケ谷に渡すもの大体欲しがるから」

先ほどの真田課長からの話が頭に浮かんだ。

「余計なことは言わないけど……」

「桐ケ谷とふたりで話すのって久しぶりだよな。いつもあの子が入って来るから。元気が良くていいけどちょっと話が長いな」

進藤君もそう感じていたんだ。

「あの、進藤君今少しだけ時間取れない? 彼女のことで話があるんだ」

「彼女って小林さん? いいけどコーヒー飲んでいい? 休憩する暇がなくて喉が渇いているんだ」

進藤君はそう言いながらコートを脱ぐ。

「それなら私淹れるよ」

「じゃあ、パントリー近くのテーブルで話そう」

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