初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「どうかした?」

言いたいことは沢山あるけど、私はその全てを飲み込んだ。

「察しているなら、今後配慮して欲しいんだけど」

「それはいいけど、そもそも俺が総務に出入りする理由、桐ケ谷は分かってないの?」

「用があるからでしょ?」

総務は社内の手続き窓口なのだから。

「用って……桐ケ谷は相変わらずだな」

彼は苦々しく笑った。

「どういう意味?」

「鈍感ってこと」

鈍感? 私は眉をひそめる。もったいぶった言い方が嫌な感じだと思った。

「不自然に思わなかった? 総務への手続きなんて経営企画の派遣の子に頼めば代わりにやって貰える。それなのにわざわざ頻繁に通う理由を考えなかった?」

「前に聞いたら派遣の子とは時間が合わなくて頼めないって言ってたよね?」

「え? あれをまともに信じてたんだ」

進藤君は、大げさなくらい目を丸くする。

「嘘だったってこと?」

「嘘って言うか口実? 遠まわしにしても一切伝わらないみたいだからはっきり言うけど、俺は桐ヶ谷目当てで行動してた」

「えっ?」

今度は私が驚いた。

「そんなに意外?」

「まあ……」

だって、進藤君の口ぶりでは、まるで私に興味があるように感じるから。

予想もしなかった事態に、居たたまれなくなる。出来ればこの話はもうやめたい。

だけど進藤君は私の望みとは真逆の行動に出た。テーブルの上になんとなく置いていた私の手を素早く掴んで来たのだ。

「えっ? あの……」

それまでとは打って変わって真剣な目に捉えられ咄嗟に抵抗が出来ない。

「お前が好きだよ。初めて会ったときからずっと」

掴まれた手に力がこもった。
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