初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
それぞれの恋
まさか……信じられない。

初めて会ったときからって、新入社員だった頃でしょう?

あの頃は同期と言っても、お互い顔見知り程度の認識だったはずなのに。

私たちがまともに話すようになったのは、彼が本社に転勤して来てからだ。

それまでの数年間、会う機会も無かったし、仕事でも無関係だった。

だけど、進藤君の表情は真剣そのもので、とてもからかっているようには見えない。

「何も言ってくれないのか?」

聞きなれたはずの低い声に、どきりとした。いつもはなんとも思わないのに、今は強烈に彼が異性なのだと感じさせる。

平静とは程遠い精神状態のまま、なんとか返事をした。

「驚いてしまって……」

進藤君は苦笑いで頷く。

「そうだろうな。俺の気持ち全然気づいてなかったみたいだし」

「だって、どうして? 私たち特に親しい訳でもなかったでしょう?」

「親しくなくても好きになることはあるだろう? 俺たちは同期で半年間も一緒に研修してたんだから。話さなくても桐ケ谷の人柄は分る」

「そうかもしれないけど……」

だったどうしてその時に、好意を表してくれなかったのだろう。

私はむしろ進藤君に苦手意識を持たれていると思っていた。それくらい彼の態度は素っ気なかった。

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