初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
……怖かった。いえ、今も怖い。

無言の柊哉さんの心が見えなくて、不安がこみ上げる。

怒っている? それとも軽蔑されただろうか。

先ほどの状況は、そう思われてもおかしくない。

今日は何時頃に帰って来るのだろう。まだ仕事があるから真田課長と一緒に居たのだろうけど……もし怒って帰って来なかったら?

どうしよう。早く弁解したい。不安でたまらない。

エレベータから降りると、コートのポケットに入っていたスマートフォンが、振動した。

直ぐに取り出し確認する。期待していた通り、メッセージの送り主は柊哉さんだった。

『十五分後に地下駐車場で待っている』

私は心からほっとして、スマートフォンを握り締めたまま息を吐いた。

良かった。話し合うことは出来そうだ。

出入り口ではなく、受付の脇にあるフリースペースに移動する。

ここは四人掛けのテーブル席がいくつかあり、それぞれパーティションで仕切られている。
休憩や会議室を抑える程でもない打合せなど、社員が予約不要で自由に使って良いスペースだ。

端の目立たないテーブルに行き、座り込んだ。

この短い時間にいろいろな出来事が有り過ぎて、パニックになりそう。

考えなくてはいけないことが、いくつもある。

だけど今は柊哉さんの誤解を解かなくちゃ。

そして、いつもの和やかなふたりに戻りたい。
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