初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
黙り込んだ私に、柊哉さんが穏やかに声をかける。
「でも説明はしてくれるか? 何か問題が有ったのか?」
「あ……うん。実は真田課長から私が指導員をしている新入社員の態度について、話があって……」
簡単に経緯を説明をする。ただ、進藤君から告白されたことに関しては言えなかった。
柊哉さんに知られるのは気まずいし、進藤君に対して失礼になる。だから言うつもりはなかったのだけれど、話が終わると柊哉さんは直ぐに追求をした。
「話はそれだけだったのか? 新入社員の件で手を掴まれたとは思えないが」
じっと見つめられ、私はきまずさに柊哉さんから目を逸らした。
やっぱり柊哉さんははっきり見ていたんだ。怒っていないようだから、見えなかったのかもしれないと思ったけど、彼が見過ごす訳がない。
「……指導員役を上手く果たせないで落ち込んでいたから、励ましてくれたんだと思う。進藤君は同期で新人の頃からの知り合いだから」
苦しい言い訳と思いながらも、そう通すしかなかった。
柊哉さんは何か考えているようだったけれど、それ以上突っ込んでは来なかった。
「分かった。でもこれからはああいった状況は避けて欲しい。誰かに見られたら誤解される恐れがある」
柊哉さんの声は穏やかで優しい。
発言も客観的に見て正しい。だけどそこに彼個人の感情があるのか分からなかった。
「はい。気をつけます」
「仕事で悩みが有ったら俺に話して欲しい。直接関わりがないとは言っても相談に乗れると思う」
「うん……心配かけてごめんなさい」
なんだか気分が落ち込んだ。
柊哉さんは怒っていないし、誤解が解けて良かったはずなのに、気持ちは晴れない。
「この話はこれで終わろう」
柊哉さんは私の頭をぽんと撫でる。
「うん」
「もう遅いから何か食べて帰ろう。香子は何が食べたい?」
「私は……」
柊哉さんと仲直りが出来て嬉しい。だけどこの胸に燻る感情は何だろう。
優しく包容力のある理想的な夫。良好な関係の夫婦。
本当に、そうなのかな?
そんな疑問が胸中を過った。