初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
一時間後、進藤君から返信が来た。
『桐ヶ谷に恋人がいるのは知っていた。それでも伝えたい。一度だけでいいから会って欲しい』
胸が苦しくなった。ここまで言われて断るなんて私には出来ない。
真摯な態度には、誠意を持って応じたい。
柊哉さんの言葉が頭を過ったけれど、私は『分かりました』と返信をしていた。
翌日。小林さんが出社して直ぐに彼女を空いている会議室に呼び出した。
「わざわざ会議室まで取って、どうしたんですか?」
怪訝そうにする彼女に、私は意を決して告げる。
「周りに聞かれたくない話だったから」
「え? なんですか?」
「小林さん、客観的に見て私語が増えて来ていると思う。特に進藤君が来た時に仕事を中断して話しているでしょう?」
小林さんの顔が一気に強張る。私たちの間に流れる空気が緊張したものに変わっていくのを感じなら続きを口にする。
「新入社員のときは仕事を覚えるのを最優先にしなくてはいけないよ」
「仕事はしっかりこなしています。桐ケ谷さんだって認めてくれているじゃないですか」
明らかに不満が籠った固い声で言い返された。
「そうだけど、周りかの人たちは、仕事だけじゃなく態度も見ているわ。このままだと小林さんの評価が下がって……」
「私の評価じゃなくて、指導員の桐ケ谷さんの評価が下がるんですよね!」
苛立った声に言葉を止められた。私は唖然として小林さんの怒りに燃えた目を見つめる。