初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「進藤君……」

彼は外出から帰って来たところのようだった。

私に気付くと、驚いた顔になる。彼にとっても予想外の遭遇だったようだ。

「今日は残業じゃないんだな」

進藤君はやや強張った笑みを浮かべる。

「うん。今日は順調に仕事が進んだから」

いつも通りに返事をしたつもりだったけれど、それまでなかった気まずい空気が確実に漂っていた。

会話は続かず黙っていると、進藤君が先に口を開いた。

「あのさ、今少し時間ない?」

「え?」

「昨日の件。ちゃんと最後まで話しておきたいと思って。そんなに時間はかけないから」

進藤君の様子は昨夜より落ち着いて見える。

私は戸惑いながらも、進藤君の申し出を了承した。

いずれきちんと向き合おうと思っていたことが、予想よりも早くなっただけ。

今日は柊哉さんも遅くなるそうだし、時間もある。

進藤君はほっとしたように表情を和らげると、駅とは反対方向の道を指さした。

「向こうに目立たない喫茶店があるんだ」

私は頷き彼の後に続いた。

五分程歩くと、目当ての店が見えて来た。

大通りから一本入った道に面した、レトロな雰囲気の喫茶店だ。

入口からは中の様子が見えず、初めてだと入り辛そう。

だけど中は広々としていた。小豆色の布張りのソファーとこげ茶の丸いテーブルが余裕を持って配置されている。

私たちは奥のテーブルに座り、コーヒーを注文した。
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