初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「本社に着任して直ぐにこの店を見つけたんだ。コーヒーが最高で時々通ってる。知り合いも殆ど来ないから安心して話が出来る」
彼は私が人目を気にしていると気付いているみたいだ。
運ばれて来たコーヒーはとても良い香りがした。
進藤君は満足そうに味わっていたけれど、しばらくするとカップを置いた。
「桐ケ谷の恋人はうちの会社に居るんだろ?」
どうして知っているの?……まさか進藤君は柊哉さんとの関係を気付いている?
動揺を隠せない私に、彼は苦笑いをした。
「そんなに慌てるなよ」
「でも、どうしてそう思うの? 誰かに聞いたの?」
「桐ケ谷の態度を見てたら分る。明らかに人目を気にしてるからな。昨日も専務と課長が来たらもの凄く動揺してた。俺とのことが会社で噂になるとまずいんだろ?」
進藤君は柊哉さんが相手とまでは分かっていないようだった。
少しほっとしたけれど、これ以上追求されても困る。
「どこの部署の男? なんて追求しないから心配するなよ」
まるで心を読んだように言われ、私は目を瞬いた。
「なんか……進藤君凄いね。さっきから先回りされてばかり」
「そりゃあ、桐ケ谷のことはよく分るから」
「どうして?」
「ずっと見てたから。少しの表情の変化でも喜んでるとか落ち込んでるとか、分るようになった」
進藤君は気負わずに言った。だけど私は自然に受け止められずに視線を逸らしてしまう。
「悪い、こんなこと言われても困るよな」
困る。確かにその通りだ。でも嫌だとは思っていない。ただどうすればいいのか分からないけで。
「謝らないで。進藤君は悪くないんだから」
「……そうだな」
私たちはどちらともなくカップを取り、口に運ぶ。
少し冷めたコーヒーの苦みが、口内に広がった。