初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~

「本社に着任して直ぐにこの店を見つけたんだ。コーヒーが最高で時々通ってる。知り合いも殆ど来ないから安心して話が出来る」

彼は私が人目を気にしていると気付いているみたいだ。

運ばれて来たコーヒーはとても良い香りがした。

進藤君は満足そうに味わっていたけれど、しばらくするとカップを置いた。

「桐ケ谷の恋人はうちの会社に居るんだろ?」

どうして知っているの?……まさか進藤君は柊哉さんとの関係を気付いている?

動揺を隠せない私に、彼は苦笑いをした。

「そんなに慌てるなよ」

「でも、どうしてそう思うの? 誰かに聞いたの?」

「桐ケ谷の態度を見てたら分る。明らかに人目を気にしてるからな。昨日も専務と課長が来たらもの凄く動揺してた。俺とのことが会社で噂になるとまずいんだろ?」

進藤君は柊哉さんが相手とまでは分かっていないようだった。

少しほっとしたけれど、これ以上追求されても困る。

「どこの部署の男? なんて追求しないから心配するなよ」

まるで心を読んだように言われ、私は目を瞬いた。

「なんか……進藤君凄いね。さっきから先回りされてばかり」

「そりゃあ、桐ケ谷のことはよく分るから」

「どうして?」

「ずっと見てたから。少しの表情の変化でも喜んでるとか落ち込んでるとか、分るようになった」

進藤君は気負わずに言った。だけど私は自然に受け止められずに視線を逸らしてしまう。

「悪い、こんなこと言われても困るよな」

困る。確かにその通りだ。でも嫌だとは思っていない。ただどうすればいいのか分からないけで。

「謝らないで。進藤君は悪くないんだから」

「……そうだな」

私たちはどちらともなくカップを取り、口に運ぶ。

少し冷めたコーヒーの苦みが、口内に広がった。
< 143 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop