初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「俺さ、入社して初直ぐに桐ケ谷のことがなんとなく気になったんだ。話し方とか笑うタイミングとか、空気感とか。いいなと思った。忘年会の余興の練習を覚えてるか? ダンス苦手そうなのに一生懸命覚えようとしている姿が可愛いと思った」
「でも……私たち殆ど話さなかったよね? 進藤君は今より話しかけ辛い雰囲気だったし、どちらかというと苦手意識持たれていると思ってた」
「それは当時の俺の子供だったところだ。桐ケ谷にアピールしても全く相手にされないから意味不明な逆ギレしてたんだよ。情けないけど段々素直に気持ちを表せなくなっていた」
「でも、アピールされた記憶は無いんだけど……」
進藤君は、はあと溜息を吐く。
「桐ケ谷が鈍感過ぎたのも上手くいかなかった原因だよな。もっと直接的な言葉で迫れば良かった。あの頃はまだ今の恋人と付き合ってなかったんだろ?」
「うん」
「そっか……俺はチャンスを生かせなかったんだな」
返事なんて出来なかった。頷くのは傲慢だし、かといって否定も出来ない。
「再会した後も見込みがないって分かってたんだ。でも期待も捨てきれなった。今回面と向かって振られてすっきりしたよ。三年も引き摺ってたけど、これでようやく過去に出来る」
進藤君は明るく言ったけれど、私に向ける眼差しは物悲しく見えた。
それは私の勝手な思い込みかもしれないけど、一緒になって微笑むなんて出来なかった。
「ごめんなさ……」
「謝るなよ。惨めになるだろ?」
私は口を閉ざした。
しばらくすると進藤君はがらりと雰囲気を変えて、「そう言えば」と話出した。