初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「昨夜の内に小林さんと話たよ。しばらく総務には行かないようにするから安心しろよ」

それまですっかり頭から離れていた彼女の姿が過る。

言動がおかしかったのは、やはり進藤君と何か有ったからなんだ。

「彼女にどんな風に言ったの?」

「そのまま。当分総務に行かないから、こっちにも来ない方がいいって。新入社員なんだからもっと仕事に集中しろって」

「彼女は何て?」

その時の会話を思い出しているのか、進藤君は顔を曇らせた。

「仕事以外でならいいのか?って聞かれた。でも断ったよ」

「小林さんに、好きだって言われたの?」

彼女の不安定な様子は、進藤君に拒否されたからだろうか。

「詳しい内容は桐ヶ谷にも言えない。小林さんに失礼になるだろ?」

「あ、そうだよね。ごめん、無神経だった」

「いや、巻き込まれてるんだから気になって当然だ。詳細は言えないけど、彼女は勘が鋭いみたいで前から俺の気持に気付いてたよ。そのことに俺も気付いていた。でもどちらも口にしなかった」

「よく、分からないんだけど……」

小林さんも進藤君も、お互いの腹の内を知りながら、気付かないふりをして接していたってこと?

「彼女感情的になってたから、しばらくはやり辛いかもしれないけど、その内落ち着くと思うから、桐ケ谷はこれまで通り指導してやってな」

「うん、それはもちろん……」

結局、進藤君と小林さんの間に何が有ったのかは謎のままだ。

だけど、私が知る必要もないのだろう。ふたりの関係は彼らだけのものなのだから。

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