初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「そろそろ行こうか」

腕時計をちらりと見た進藤君が、椅子から立ち上がる。

私も彼に続き席を立つ。すると彼は再び腰を下ろした。

「桐ケ谷が先に行って。一緒に出て誰かに見られたら困るだろう?」

「あ……そうだね。じゃあお金を……」

バッグから財布を取り出そうとすると、「いいから」と早く立ち去るよう促される。

「今度、会社でコーヒーでも差し入れてくれたらいいから」

「分かった……進藤君、ありがとうね」

「いいって。明日から同僚としてまたよろしくな。お疲れさま」

彼は笑ってひらひら手をふる。

私は会釈をするとバッグを抱え店を出た。

進藤君とはしっかり話せた。今後は良い同僚として付き合っていけるようになったと思う。

それなのに胸が痛かった。

進藤君と過ごした過去の記憶が蘇る。

全然仲良くなかったのに、思い出の中には彼の存在があった。



灯りの着いていないマンションに帰ると寂しさが襲って来た。

食欲がなくて何も買って来なかった。紅茶でも飲もうとキッチンでお湯を沸かす。

そのとき、スマートフォンが着信を告げた。

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