初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
画面の表示は【小林優海】どきりとしながら応答する。

『もしもし』

『小林です。すみません急に電話して』

『それはいいんだけど、何か有った?』

連絡先の交換はしていたけれど、彼女が私に電話をして来たのは初めてだ。

日中のこともあるし、嫌な予感がこみ上げる。

まさか辞めたいとか言い出すんじゃ……。

『あの、きちんと謝りたくて。今日の暴言本当にすみませんでした』

『それはもう気にしなくていいから。小林さんも動揺したんだろうって分かるし』

『私、進藤さんにふられちゃったんです』

『え……』

そうだろうとは思っていたけれど、まさか本人の口から聞くことになるとは思わなかった。

『私、進藤さんに一目惚れしたんです。だから桐ケ谷さんや周りの人がひいてるの分かってたけど、止められなかった。でも結局振られちゃって……そんな時に桐ケ谷さんに注意をされたからカッとなっちゃったんです』

『そうだったの……』

『結構本気で好きだったからショックでした。進藤さんには好きな人が居るって気付いていたけど、諦められなかった。でも……もう忘れます。明日からはしっかり働くのでこれからも指導お願いします』

小林さんの口調はしっかりしてものだった。傷ついていない訳がないのに気丈に振舞い立ち直ろうとしている。

『こちらこそよろしくね。あと二か月ちょっと頑張ろうね』

進藤君も小林さんも、傷つきながらも自分の気持ちに迷いが無いように見える。

私と柊哉さんは、どうなんだろう。
迷わずにお互いを好きだと言える?


小林さんとの通話を終えた後、着信履歴を確認した。

柊哉さんからの連絡は、既読後ない。

今、どこにいるんだろう。

急な仕事って何?

そう言えば、私は柊哉さんに聞いたことが無かった。

遅くなると言われれば“はいと頷くだけ。

恋人よりも近い夫婦なのに、柊哉さんについて知っていることはほんの僅かなのだと、今更のように気がついた。
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