初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「そう思ったことがある。私たちは政略結婚だから、普通の恋人よりも言葉が必要なんだって」

それで柊哉さんに好きだと伝えた。彼も気持ちを返してくれて私たちの距離は近づき、一緒に眠るようになった。

あの時持てた勇気が、どうして今持てないのだろう。
想いはますます大きくなっているというのに。

私は臆病になってしまった。

柊哉さんにぶつかるのがこんなに怖いなんて。


「ねえ、香子たち喧嘩したことあるの?」

紫穂の問いに私は首を傾げた。

「ないけど。どうして?」

「衝突するのを怖がってるように見えるから。柊哉さんに限らず香子は昔から人と言い合うの苦手だよね」

「うん。喧嘩するくらいなら自分が折れた方楽だと思う」

言い合いになったのなんて、家族と紫穂くらいしかない。

「喧嘩した方がいいとは思わないけど、気持ちは伝えた方がいいよ。相手はこれから一緒に生きていく旦那さんなんだから。いつもみたいに仕方ないなって諦めないでよ」

一緒に生きていく……その言葉が胸に響く。

「そうだね……ありがとう、考えてみる」

前向きな返事をしたからか、紫穂は表情を和らげる。

「前に今更性格は変えられないって話したじゃない?」

「うん」

「でも私、最近少し変わった気もするの。自分のこだわりを大事にしたかったけど、相手に合わせるのも大切なのかなって」

「もしかして、さっきの彼?」

彼を見つめる紫穂の目はとても嬉しそうだった。

「そう。意外と簡単に考え方って変わるんだなって驚いてる」

「そっか」

何か解決した訳じゃないけど、紫穂と話していると気が楽になった。

長い付き合いの彼女には、取り繕わずに自分の駄目な面を見せられるし、受け入れて貰える。

柊哉さんは、どうだろう?

私のこのドロドロとした醜い嫉妬心を知ったら幻滅しないかな?

迷いはまだ消えない。だけど気持ちが固まっていくのを感じていた。

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