初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
あの日見た光景は、衝撃的だった。
人気のない場所で、進藤伊吹が香子の手を掴んでたのだ。いや握り締めていたと言った方が正しい。
香子を見る進藤の渇望するような目。
あれはどう見たって仕事の相談なんかじゃない。
告白しているところだと言われた方が、よほど信じられる。
誤魔化す香子に苛立ちを覚えた。彼女に怒りを感じるのは初めてだった。
それでも問い質せなかった。
内心怒りに燃えているくせに笑顔を浮かべ、『これからはああいった状況は避けて欲しい。誰かに見られたら誤解される恐れがある』などと余裕ぶって言った。
納得出来なくても、嫉妬で怒り狂うようなみっともない姿を香子に見せられなかったのだ。
器の小さな男だと思われたくなかった。香子の前では頼りがいのある大人の男でいたい。
そのくせ、もう会社に行かせたくないと思っているのだから、どうしようもない。
このままでは妻を軟禁する、気の触れた夫になりそうで怖い。
悩んでいると、真田の声がした。
「なんか、葛藤してるな」
「放っておいてくれ」
「え? あのふたりのこと教えてやろうと思ったんだけど?」
俺は勢いよく真田に視線を合わせた。
あのふたりって、香子と進藤のことか?
一体何を知っている?
直ぐにでも知りたいのに、真田はのんびりと呟く。
「必死だな。そんな様子初めてみた」
「いいから、何を知ってるか言ってくれ」