初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
湧き上がる嫉妬で胸が苦しい。

こんなはずじゃなかった。

結婚生活なんて容易いと思っていた。誰が相手でも上手くやっていけると。

家庭では余計な争いを避け、トラブルなく過ごす。

自分の快適な暮らしの為に、優しい夫の姿を演じるなんて簡単だ。そう信じていたのに。

実際はままならない。

優しく寛容な夫を貫くのに限界が来そうだ。

「なあ、裏切らないと信じてるなら、どうしてそんなにイライラしてるんだ? 彼女と上手くいってるんだろ?」

「信じているが、最近香子の様子がおかしい」

「どんな風に?」

「余所余所しい。何か言いたそうにしているのに、何も言わない」

いつ頃からか、香子との距離を感じるようになっていた。

はっきりとした日は分からないが、新年を迎えた後だ。

その態度は香子の心が、自分以外に向き始めている証のように思えた。

心が揺れただけでも、彼女は罪悪感を持ちそうだ。そして自分はその事実を許せない。

そんな気持ちがふたりの距離をますます遠くさせるようだった。

このままではいけないと思うのに、上手く問い質せない。


「なあ……それってさ、お前に聞きたいことがあるんじゃないのか?」

「聞きたいって?」

真田はなぜか気まずそうな顔をした。

「何か知ってるのか?」

「余計な口出しはしたくなかったんだけどな。ここまで拗れてるから仕方ないか」

そう独り言のように呟くと、諦めたような息を吐く。

「勿体ぶるなよ」

「あのさ、彼女、風花のこと気付いてるぞ」

真田の言葉は、予想もしていなかったものだった。

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