初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「退職が決まった後の風花の仕事ぶりを見て、重要な案件はフォローした。でも新入社員に引き継いだデータ集計に確認漏れが有ったんだ。それで指導員の桐ケ谷さんにしわ寄せがいってる」

「……香子は俺には何も言わなかった」

「そんな深刻な顔するなよ。業務上の悩みを事細かに話してる夫婦なんて、そんなにいないんじゃないか?」

それでも困っているなら一番に相談して欲しかったと思うのは、勝手なのだろうか。

「解決したのか?」

「ああ、大した問題じゃない。新入社員に振った仕事じゃなかったら俺まで報告が来なかったんじゃないかな。それより問題はその報告をしたときの彼女の態度だ」

真田は言葉を切り、アルコールで喉を潤す。のんびりしたその様子に、つい先を促したくなるのを耐える。

「明らかに風花を気にしているんだ。それとなく聞き出したら、俺たち三人は同期だけど仲が良かったんですか?って探ってきた。これは何か知ったなと気付いたよ」

「それでお前は何て答えたんだ?」

「正直に。仲が良かったし、忘年会の余興の練習で盛り上がった。仕事帰り毎日のように集まっていたと言ったよ。」

飄々と言う真田に対して、舌打ちをしたくなった。

香子が気にしているのに気付いたのに、なぜ馬鹿正直に話すのか。

「他の言い方が有っただろう?」

「そうかな? 嘘を言うよりはいいと思ったけど。柊哉は彼女を騙したい訳じゃないだろ?」


真田の言う通りなので反論出来なかった。

香子を騙したり欺くつもりなど微塵もない。だが、聞いて嫌だろう内容は知らせたくない。

それは当たり前の気持ちではないだろうか。
< 161 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop