初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「それで……池田さんはどうしたの?」

「初めは抵抗していた彼女も、最終的には退職に合意した」

「彼女、辞める前に具合が悪かったって……」

「表向きそういう理由で退職になった。次の会社の紹介と生活の保障を引き換えに辞めて貰ったんだ。自分でも酷いと思ったが、そうしてでも香子と結婚したかった……いや、会社を継ぎたかったんだ」

柊哉さんは苦しそうに言葉を吐きだす。私は胸を突かれたように息苦しさを覚え思わず目を逸らした。

今はっきり柊哉さんに言われてしまった。やっぱり私と結婚したのは後継者になりたいからだって。

分かっていたはずなのに、悲しくなる。

でも私だって柊哉さんを責められない。家業の為商……いいえ、結局は自分の生活の為に結婚したのだから。

池田さんも、進藤君も、小林さんも……みんな純粋に誰かを好きな気持ちで行動しているのに、私と柊哉さんはそうじゃない。

「政略結婚って……こんなに寂しいことだったんだね。私少しも分かってなかった」

柊哉さんとなら上手くいくと思っていた。彼を知るにつれ好きになった。それなのに……。

「私、柊哉さんと結婚出来て幸せだと思ってた。でも妻の立場より、柊哉さんの気持ちが欲しかった」

「待て! 違うんだ!」

柊哉さんが声を荒げる。私は痛む胸に苦しみながら彼を見つめる。

「違う?」

「そうだ。最後まで聞いてくれ。今言った通り初めは会社の為に香子と結婚した。でも二人で過ごす内に、気持ちが変わったんだ……香子を愛している。出会いの経緯なんてどうでもいい。俺はもう香子無しでは暮らせない。大切で手放せないんだ」
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