初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「やっぱり器が大きいんだな。桐ケ谷が好きになるのも分る。想いが通じて良かったな」

笑顔を見せてくれる彼にホッとした。

「ありがとう」

「みんなに公表されたら、同期で新居に遊びに行くから。専務のプライベートの姿見たいし」

「えー大丈夫かな?」

笑いながら話していると、高い声が割り込んだ。

「あーここに居た! 桐ケ谷さん、進藤さん、みんな捜してましたよ」

小林さんだった。彼女は頬を膨らませどんどん近づいて来て、がしっと私の手を掴む。

「主役が外しちゃダメじゃないですか。進藤さんも戻りますよ」

「ごめんね」

私は大人しく小林さんの後に続く。進藤君も一緒で小林さんと自然な様子で話していた。

一時気まずかった二人も最近では元通りになっていて安心した。

宴会場に戻り、真田課長や先輩たちと楽しく話す。

沢山の仲間に見送られ、私は桜川都市開発を退職した。




本当に良い会社だったな……皆と別れた後ひとりになり、寂しさがこみ上げた。

だけど自宅最寄りの駅で電車を降りると、改札口に柊哉さんの姿があった。


「柊哉さん!」

駆け寄ると、優しく受け止めてくれる。

「お帰り」

「今日は遅くなるんじゃなかったの?」

「香子が寂しくなってるかと思ったから」

彼は同僚たちに貰ったプレゼントの入った紙袋を引き取り、もう片方の手で私の手を握った。

「帰ろう」

「うん、ありがとう、柊哉さん」

静かな夜の町をふたりで歩く。

「少し泣いた?」

「泣いてないけど、涙が出そうになった。やっぱり寂しいから。いい会社だったな」

「そうか……」

柊哉さんが向ける眼差しは柔らかだ。

大切に想ってくれていると感じ、幸せになる。寂しい気持ちはもうなくなっていた。

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