初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「小林さん、おはよう」
「桐ケ谷さん、相変わらず早いですね」
「そうかな?」
始業二十分前の出社はそれ程早くないと思うけど。
「九時までに仕事が出来るようにしておけばいいんですよね。準備なんて五分くらいで終わるじゃないですか」
彼女はそう言いながら本当に五分以内にノートパソコンを立ち上げ、必要な書類を整えていた。
「人事異動の詳細来ましたね」
朝のメールチェックをしていた小林さんが、身体ごと私の方を向き言った。
ちらりと見えた画面には、関係者宛に送信されたメールと、添付ファイルが表示されている。
私も少し前に見たばかりの、定期人事異動の件だ。
桜川都市開発では毎年十月に大きな人事異動がある。私達総務はいろいろな手続きをするため、一般社員より早く情報が回って来る。
「その情報、関係者以外には話しちゃ駄目だからね」
分かっているとは思うけど、念のために言っておく。
小林さんは、不満だったのか口を尖らせるようにした。
「分かってますよ。それよりここ見ました?」
彼女は画面の一点を指で指す。私は少しだけ顔を近づけて内容を確認した。