初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
そこには“進藤伊吹”と記されていた。

「この人、桐ケ谷さんの同期ですよね?」

氏名の次に記されている社員コードの上二桁は入社した西暦になっており、一目で社歴が分かるようになっている。

「うん、進藤君がどうかした?」

彼は今回の辞令で関西営業部から経営企画部に異動になる。ただ私たちが仕事で関わることは少なそうだ。

「関西営業部の同期から聞いたんですけど、凄く仕事が出来る人みたいですね」

「私はよく知らないけど、経営企画部に配属になるくらいだから出来るんだろうね」

「同期なのに知らないんですか?」

小林さんは、やけに驚く。

「うん、同期と言っても全体研修で少し話したくらいだから」

プライベートのアドレスも知らないし、顔見知り程度の関係だ。

「なんだ、桐ケ谷さんに紹介して貰おうと思ってたのに」

「そんなこと考えてたの?」

「はい。良い影響を受けられそうじゃないですか」

「そう……」

堂々と答える彼女の貪欲さが凄いと思った。

私が新入社員の頃なんて、毎日緊張していて、新しい仕事を覚えるだけで精一杯だったけど。


その後、小林さんに異動の際の社内手続きの説明をしてから、通常の仕事に取り掛かった。


今までは帰宅時間を気にせずに残業していたけれど、今日からは夕食作りがあるので定時に帰りたい。

その為には計画的に仕事をしなくては。

頭の中で段取りを考えてから、小林さんに仕事を割り振る。

彼女は要領が良いので、たいてい私が想定している時間よりも早く終わる。

もうそろそろ幾つかの業務を、丸ごと渡しても大丈夫かもしれない。

お昼休憩を挟み、午後も淡々と業務を進めていると、周囲がやけにざわざわしているのに気が付いた。

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