初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「女の子って、私はもう二十五歳ですよ?」

口を膨らませて怒ったふりをすると、柊哉さんは声を出して笑った。

彼は笑うといつもよりも子供っぽく見える。大企業の重役の姿はそこになく、親しみを覚え、私も口数が多くなる。

「今日は驚きました。柊哉さん突然来るから」

「ああ……あとで怒られるかもしれないと思ったんだ。でもどうしても香子の働くところを見ておきたかった」

「え、そうなんですか?」

「そう。真田のことは口実で、香子の様子を見るのが目的」

悪戯ぽく笑う柊哉さん。

「……だったら私も柊哉さんの働くところを見てみたい」

「いいよ。香子だったらいつでも歓迎する」

「本当? 私、役員室って入ったことなくって」

「早速明日はどう?」

課長や秘書なら機会は有るだろうけど、私の様な一般社員には殆ど機会が訪れない。

柊哉さんの働くところも見てみたいし、行ってみたい……だけど。

「やっぱりやめておきます。今日の件もあるし私が役員室に行ったら目立ちそう」

「大丈夫だろ?」

「駄目です。柊哉さんって意外と楽観的ですね」

「そうか?」

私は黙って頷いた。社内報などで見る柊哉さんは、きりっとした顔をしていていかにも若きエリートってイメージだった。近寄りがたい人だと感じていた。

だけどこうして向き合っているとその印象が変わって行く。

もっと話したいと思う。

柊哉さんも同じ気持ちでいてくれているのか、食事が終わっても席を立つ様子はなく他愛ない会話が続く。

だいたいが会社での話。今の私たちにとって数少ない共通の話題。
と言っても仕事の話ではなく、同僚の話題とか信憑性の無い噂話とかだけど。
< 33 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop