初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~

「香子みたいに自由に悩みのない結婚生活を送れるのならいいんだけど。現実には難しいよね」

「うん。悩みがゼロは無理かもしれないよね」

「え? 香子悩みあるの?」

紫穂が意外そうに綺麗なアーモンド形の目を瞬く。

私は返事より先に二杯目の白ワインを飲み干した。今から話す内容的にお酒の勢いが必要なので。

「悩みはあるよ。何ていうか……かなり言い辛いんだけど」

「え? 何?」

身を乗り出して追及されると、ますます言い辛くなる。

だけど紫穂に相談したいと思っていたこと。今更恥ずかしがってどうするの?

「あの……夜がね、結婚初日以外は別々に寝てるの」

思い切って告げると、紫穂はかなり驚いたのかポカンと口を開いた。

「え? つまりはセックスがないってこと?」

ストレートな言いように怯みながらも、実際その通りなので首を縦に振る。

そう。あの入籍日の夜以来、柊哉さんからは何のアクションもなく、それらしい気配も見えないのだ。

楽しく食事をした後はリビングでお別れして、各自の部屋に戻るという健全な暮らし。


穏やかで自由な新婚生活の唯一にして、最大の悩み。

夫に触れてもらえない問題だった。
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