初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
桐ケ谷不動産の一人娘、桐ケ谷香子との縁談は、祖父から持ち掛けられたものだ。
夏のはじまりを感じさせる、日差しの強い日の出来事だった。
桜川家本家には祖父の孫にあたる親族の男性が数人集められていて、そこで初めて桐ケ谷家との縁談を知らされた。
桐ケ谷家は同業と言っても経営難で桜川家にとって魅力的な家とは思えず、祖父がなぜ縁談に乗り気なのか首を傾げる思いだった。
しかし辛抱強く話を聞いていると、祖父が若い頃世話になった恩返しをしたいからという非常に個人的な感情からくる縁談だということが判明した。
つまり没落しかけた昔の恩人を援助したい。ただそれだけの理由で多額の援助をするのは、親族連中が煩くて無理なので、孫の中の誰かが結婚して姻戚になれと言うわけだ。
しかし、いきなりそんなことを言われても、皆困惑するだけだ。
自分を始め“桐ヶ谷の娘の婿候補”たちは当然気が乗らず、名乗りを上げるものなどいなかった。
沈黙がしばらく続いた後、祖父は思いがけない発言をした。
『香子さんと結婚した者を後継に推薦する』
桜川グループの現在の代表は、祖父の長男の桜川修一。しかし彼に子供が出来なかった為、後継は決まっていない。時期が来たら今集まっている親族の男の中から選ばれるだろう。
その際、現役を退いた今でも強い発言力を持つ祖父の推薦が有れば決まったようなものだ。
つまり、桐ケ谷香子の夫が桜川家の後継者となる――。