初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
香子との生活は快適だった。

彼女は家事に慣れていない様子だったが、一生懸命に料理、掃除などをしてくれた。

食事中の会話は心地よかった。

彼女のコミュニケーションスキルが高いという訳ではないのに、なぜ心地良いのか。

不思議だったが直ぐに分かった。

香子の発言には裏がないのだ。いつだって純粋な心で向き合ってくれる。

他人を憂鬱にさせるような愚痴もない。嫌なことが有ったときは落ち込むものの、『仕方ないですね』と早々に気持ちを切り替えている。

妬んだり、不公平だと不満を訴える姿もみた覚えがない。安定した心の持ち主で、彼女といると落ち着いた。

いつの間にか好きになっていたのだと思う。

『柊哉さん、好き……』と囁かれたとき自分の感情を強く実感し、夢中になって香子の身体を抱きしめた――。




「……ごめんな」

疲れたのかぐっすりと眠る彼女の頬をそっと撫でる。

自分が誘わなかったことで不安にさせてしまったなんて。

経験の少ない彼女に無理をさせたくなかったからだが、間違った判断だった。

それだけじゃない。入籍のときも、初めて抱いた夜も、それからの暮らしの中でも。

本心を伝える言葉をかけた覚えがない。

後悔が押し寄せたが、その分これからは大切にしようと決意する。

香子が目を覚ましたら伝えよう、今度は心から。

君と結婚出来て幸せだと――。

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