初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
父が経営している桐ケ谷不動産は、桜川都市開発の同業者だ。
けれど、規模はまるで違う。
桜川都市開発が全国はおろか海外にまで進出している業界トップ企業なのに対し、桐ケ谷不動産は関東北部での事業展開しか行っていない。
地元の中堅企業といった位置付けだ。
しかもここ数年経営は悪化の一途を辿っており、父の話では存続が難しいところまで来ているとのこと。
桜川都市開発にとって、吸収合併するにしても業務提携先としても魅力的とは言えない相手なのだ。
それなのに、どう言う訳か縁談には桜川サイドの方が乗り気だった。
段取りよくお見合いの席が設けられ、次期社長に一番近いと噂される柊哉さんが私の相手として選ばれた。
彼については、自分が働く会社の役員として知っていた。
とは言え、取締役と総務部の一般社員でしかない私たちの間に接点があるはずもない。
高級料亭で両親も同席する昔ながらのスタイルの顔合わせが、初対面のようなものだった。
振袖姿の私はとにかく緊張をしていたし、家の都合による結婚に対し、まだ覚悟が出来ていなかった。だけど……。
『桜川柊哉と申します』
遠くから眺めるだけだった彼を間近で見たその瞬間、とても気持ちが楽になった。
彼の際立った容姿、落ち着いた物腰、聞き心地の良い低い声。どれも素晴らしいものだったけれど、一番心惹かれたのは想像していたよりも優しい微笑みだった。
この人となら結婚しても大丈夫。根拠もないただの勘だけれどそんな風に感じたのだ。