初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「香子」
振り向こうのとしたのと同時に、後ろから来た柊哉さんが隣に並んだ。
驚く私に、柊哉さんが柔らかく微笑む。
「ただいま」
「お、お帰りなさい。びっくりした、まさかこんなところで会うとは思わなかったから」
咄嗟に腕時計を確認する。時計の針は十時十五分を指している。
「タクシーで帰って来たんだけど、香子が歩いているのが見えて降りたんだ」
「え、降りたの? 先に帰ってればよかったのに」
遅くまで打合せだったのなら疲れているんじゃない?
「香子と一緒に帰りたかったから」
「え?」
それだけの理由でタクシーを降りて追って来てくれたの?
「……嬉しいです」
くすぐったい気持ちになる。柊哉さんは私が持っていたパンとコーヒーの入った袋を引き受けてくれた。
ふたり並んで夜の道を歩く。柊哉さんと一緒だとただの帰り道も楽しくなる。夜の散歩って感じで、遠回りをしたいくらい。
「今まで仕事してたのか?」
柊哉さんの声が夜の街に響く。
「予定外の仕事が入ってしまって九時過ぎまで残ってたの。駅前のスーパーに寄ったからこんな時間になっちゃった」
「そうか。総務も忙しいんだな」
「そこそこには……あ、柊哉さんは食事は済ませて来てる?」
「軽く。香子は?」
「私はまだだけどパンを買ってあるの。多めに買ったから柊哉さんも一緒に食べませんか?」
ひとりで食べるより、二人の方が美味しく感じるもの。
いつもと違うコーヒーも買ってみたので、柊哉さんの感想も聞いてみたい。