初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
だからと言って実際結婚まで進むとは思わなかった。私が良い印象を持ったとしても相手も同様だとは思えないから。

プライベートについては何も知らないけれど、会社での彼はとてもモテる。

お見合いなんてしなくても相手は選び放題のはずで、私的な感情を消してまで桐ケ谷の娘と結婚する利点は見当たらない。

私個人として望まれる自信は、もっと無い。

数日後には断りの連絡が入ると思っていた。

けれどその予想は外れ、桜川家から私と柊哉さんの結婚を進めたいとの返事が来たのだ。


そらからは怒涛の展開だった。

桜川家の意向もありたった一月の期間で準備を進め、彼とはろくに会う機会も話し合いもないまま、昨日入籍となった。

初夜もしっかり終えたけれど……正直言って未だに彼の妻になった実感が少ない。

私の左手の薬指には真新しいマリッジリングが輝いていると言うのに。

多分、彼を好ましいと思っている一方で、距離も感じているからだ。

身体は重ねても、お互いについて知らないことだらけ。

他人から誰よりも近い存在になっても、心の距離はまだまだ遠い。





ゆっくり温まってから、バスタブを出た。
ドライヤーで髪を乾かし、簡単にメイクしてからリビングに戻る。

柊哉さんはもう一つあるバスルームを使ったようで、既に身支度を済ませていた。

今日は仕事が休みだからいつものスーツ姿ではない。上質ながらカジュアルな服装。

彼は私に気付くと、穏やかに微笑んだ。
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