初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「香子、どうした?」
「あの……」
「声、よく聞こえないから、扉を開けて」
そう言われてしまえば開かない訳にはいかない。少し躊躇いながらゆっくり引き戸を開く。
外の冷気と温泉から立ち上がる湯気が流れて来た。
「もしかして気が変ったのか? 一緒に入る?」
岩の湯舟に肘をついた柊哉さんが、楽しそうに私を見つめていた。
「ち、違います! 柊哉さんのスマホに着信が有ったから、持って来たの。何度も鳴っていたから急ぎかと思って」
すると柊哉さんは、それまでは明るかった表情を曇らせる。
もしかして持って来なかった方が良かったのかな?
「あの、迷惑だった?」
「いや、ありがとう」
柊哉さんはそう答えたけど、無理をした笑顔に見えた。
「ここに置いておくね」
私はミネラルウォータが置いてある濡れていないスペースにスマートフォンをそっと置き、部屋に戻った。