初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
せっかくの旅行だと言うのに、心の中がもやもやして気が晴れなかった。
電話の相手が誰なのかはもちろん、柊哉さんの態度も気になった。
彼がお風呂から戻って来たら聞いてもいいのかな?
夫婦と言っても何にでも踏み込んではいけないと思う。だけど割り切るのも難しい。
柊哉さんのことを何でも知りたい気持ちが日に日に大きくなっていて、見て見ぬふりが上手く出来ない。
今までの私は、相手が聞かれたくない空気を醸し出しているのを察するとそれ以上踏み込まなかった。
だけど柊哉さんに対しては……。
あれこれ考えている内に、柊哉さんがお風呂を終えて部屋に戻って来た。
旅館が用意した浴衣姿で、髪は簡単に拭いただけなのか濡れているのだけれど、全てがやけに艶っぽく見えて、それまで悩んでいたのも忘れときめていていた。
元々美形なだけに何を着ても様になる。
柊哉さん……素敵すぎる。つい見惚れていると彼は戸惑った表情になった。
「香子?」
「あ、何でもないです。お風呂気持ち良かった?」
誤魔化すように質問を返すと、柊哉さんは「ああ」と微笑んだ。
彼の手にはスマートフォンがある。お風呂で電話をしたのかな?
再び気がかりが戻って来て、私はそれを振り切るように立ち上がった。
「私も入って来るね」
務めて明るく言い、用意しておいた浴衣などを手に立ち上がる。
けれど柊哉さんに止められた。
「香子、待ってくれ」
「え?」
「話があるんだ」
ついさっきまでとは違う、真面目な彼の表情に胸がドキリとした。
話って、何?
聞くのが不安であり、だけど聞かずにはいられない。
そんな気持ちで、柊哉さんの言葉を待った。