初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~

「知っていると思うけど、俺の父親は祖父の三男だ。末っ子で子供の頃から甘やかされて育ったらしい。そのせいか分からないが、どこか浮世離れしたところがある」

「浮世離れ?」

「考え方が特殊なんだ。例えば一般的には成人したら仕事をして自分で生活費を稼ぐのが当然と考えるだろ?」

私はもちろんと相槌を打つ。

「うちの父親はそうじゃないんだ。常識に捕らわれず自分の好きなことをする。大学卒業後、桜川都市開発の関連会社に入社したが、三ヶ月で辞めた」

「え? 三ヶ月って新人研修も終わってないんじゃ……それで辞めてどうしたの?」

「自分探しの旅に出た」

顔が引きつりそうになるのを、なんとか堪えた。

自分探しの旅……そういう行動に出る人が居るらしいと情報としては知っていたけれど、身近で聞くのは初めてだ。

しかも、桜川本家の人間のお義父様は、将来の幹部として入社しているはず。
そんな人が仕事を覚える間もなく辞めてしまうなんて。

「あの……何て言ったらいいか……お義父様にそんなイメージは無かったから」

どちらかと言えば保守的なタイプに見えたのに。

「それで旅に出てからどうしたの?」

「旅に挫折したのか直ぐに戻って来たそうだ」

そっちも辞めてしまったの?……本当にすごく自由なお義父様だ。

「それでまた桜川グループで就職を?」

「そうだが、驚くのはそこじゃない。父は戻って来た時点で結婚していたんだ」

「ええっ?」

私は今度こそ取り繕うのも無理で、高い声を上げた。

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