初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「……柊哉さんは、自ら後継の地位を望んでいたの?」
桜川家には何人か後継候補がいるのは知っていた。柊哉さんもそのひとり。だけど彼がこんな風にはっきりと野心を見せるのは初めてだ。
柊哉さんは私を見つめながら、ゆっくりと頷いた。
「ああ。俺はどうしても会社を継ぎたい。その為にはどんな苦労もする覚悟がある」
柊哉さんの目は真剣だった。今の宣言は真実なのだと告げている。
そんな明確な意思を表す彼に対し、私は戸惑いを覚えていた。
私は柊哉さんのような野心を持ったことがない。
何がなんでも欲しいと願うような対象も今まで見つけられず、渇望なんて言葉とは無縁で生きて来た。
彼に比べると私が暮らしていた環境は緩くて、苦労知らずなのだろう。
だから、完全に共感は出来そうにない。
正直言えば、苦労してまで親戚を見返さなくても、自分達が幸せに暮らせたらいいのではないかと思っているし。
だけど、知らなかった彼の一面を見たからといって、私の気持ちは変わらない。
柊哉さんが好き。
後継争いについては何も出来ないけど、努力する彼を癒せるよう、心休まる温かい家庭を築きたいと思う。