初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「進藤さん、おはようございます!」
出入口に目を遣ると、進藤君の姿が有った。
「おはよう」
彼は爽やかな笑顔で、小林さんに応えている。それから私の席に近付いて来た。
「桐ケ谷、おはよう」
「進藤君、おはよう。何か有ったの?」
始業時間前に来るなんて珍しい。
「プライベートの話だから、仕事前の方がいいと思って」
「プライベート?」
戸惑う私に、進藤君はさらりと言う。
「今日、関西営業所から斎藤が出張で来るんだよ。昼一緒に行くんだけど桐ケ谷もどうかと思って。たしか仲良かったろ?」
斎藤さんは同期入社で、研修の時仲良くしていた子。研修終了後は配属先が離れたので滅多に会えないけれど、ときどき連絡は取っていた。と言っても最近は忙しさにかまけて疎遠になってしまっていたけど。
「久しぶりに彼女に会いたいし、行こうかな」
「よし、じゃあ十二時に一階で待ってるから」
「分かった」
話を纏めていると、やりとりをしっかり聞いていたらしい小林さんが、拗ねた声を出した。
「桐ケ谷さん、いいなー。ずるい」
「え、ずるいって……」
小林さんも行きたいってこと? だとしても勝手に誘っていいものか分からず、進藤君に目線で尋ねる。
彼は私の言いたことを、正確に察したようだ。
「小林さんも行く?」
「いいんですか? 是非!」
すっかり機嫌を直した彼女は、嬉しそうにニコニコしている。
進藤君は腕時計に視線を落とすと、「また、あとで」と言い、慌ただしく総務部を立ち去った。
その後ろ姿を、小林さんがじっと見つめている。