初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
週末。定時に仕事を終えた私は、紫穂と待ち合わせをしている、ダイニングバーに急ぎ向かっていた。
店の少し重い扉を開き中に足を踏み入れた途端、声がかかった。
「香子、こっち!」
広いカウンター席の端。紫穂が今日も先に着き、早くもカクテルを飲みながら寛いでいた。
「ごめん、また紫穂が先だったね」
私は隣の席に座り、ベリーニをお願いする。
「いいよ、私が早く来過ぎたから」
「そっか。これ旅行のお土産。今回も割れやすいから気をつけてね」
私は柊哉さんとの旅行で買ったお土産の入った袋を差し出す。
中身はグラス。紫穂はいつもその地方ならではのガラス製品を希望するから、持ち運びに苦労する。
適当に料理を頼みながら、近況の報告をはじめる。
「ねえ、あの件はどうなったの?」
“あの件”とはもちろん、スキンシップ無し問題についてだ。
「紫穂と会った日の夜に話し合って解決したんだ」
「え? じゃあ一緒に寝てるの?」
「毎日ではないけど」
「良かったじゃない!」
紫穂はまるで自分のことのように喜んでくれるから、ありがたい。
「紫穂の言う通り、話し合うのって大事だよね」
成り行だったけれど、気持ちを伝えて良かった。あの夜から柊哉さんとの距離が近づいたのだし。
他人には言いたくないだろう家庭の事情も打ち明けて貰えた。
それについては、親友の紫穂にも話せないけど。
「紫穂は?」
「私は全然。でも最近変な男とは出会ったけど」
「なにそれ?」
女友達とのおしゃべりは尽きない。盛り上がって話している内に進藤君と小林さんの話題になった。
するとそれまで楽しそうだった紫穂が顔をしかめた。