初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「その後輩めんどくさい」

紫穂はかなりはっきり物を言う。私は苦笑いになった。

「そう思うときも正直あるけど、いいところもあるよ」

「そりゃあ長所だってあるだろうけど、なんだっけ同期の人」

「進藤君?」

「そうそう。その彼を絶対狙ってるから、香子はあまり関わらない方がいいよ。気をつけてね」

紫穂の言う通り小林さんは間違いなく進藤君に好意を持っている。その熱はますますエスカレートしていて見ていて心配になるくらい。

幸いここ数日進藤君が総務に来ていないので、変な事態にはなってないけど。

「指導員として注意した方がいいのかな?」

「仕事中に恋愛脳になられても困るけど、香子の場合は立場的にトラブルは起こせないからね。直接言うより上司に相談したら?」

「そうだね、考えてみる」

真田課長の顔を思い浮かべる。私の事情を知っているから相談はしやすいけど、いつも忙しそうだから、手間をかけたら悪い気もする。

柊哉さんに相談はもっと無理。総務の一社員のことを言われても困らせてしまうだろうし……。

「まあここで悩んでいても仕方ないね。楽しい話しよう」

私の言葉に、紫穂は笑う。

「それはそうだ。でも手に負えなくなったら私でも旦那さんでもいいから相談するんだよ」

「うん、ありがとう」

それ以降は嫌なことは忘れて、気持ち良く飲んだ。


紫穂と別れたあと、いつかの約束通り柊哉さんに電話する。

「柊哉さん、今終わったからこれから電車に乗ります」

「分かった。駅まで迎えに行くから」

彼は駅で待っていてくれた。

柊哉さんの姿を目にした途端に、心が温かくなる。

冷たい風も気にならない。白い息を吐きながら私達は仲良く家に帰った。

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