初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
愛する人 柊哉side

『香子が奥さんで良かった』

自然と口から零れた言葉だった。

それは夫婦関係を円満にする為の手段ではなく、偽りない気持ちだった。



香子との生活は予想していたより、遥かに快適で良いものだった。

家事をしっかりやってくれるところや、嫌味のない性格が好ましい。

穏やかな日々に満足し、日に日に香子への情が深まって行くのを自覚していた。

仕事はかなりタイトなスケジュールだと言うのに、衝動的に旅行に誘ったりもした。

彼女を喜ばせたかったからだ。

連休を取る為に必死になって仕事を前倒しでこなし体力的にはきつかったが、香子の楽しむ姿を見ると苦労も吹き飛ぶようだった。

優しく気遣いに溢れる香子。

旅行中に普通ではない電話が来たときも、明らかに気にしている様子なのに、俺に遠慮をしているのか問い質して来なかった。

それでもどこか悲しい顔をしていて、だから出来れば知られたくなかった家の恥と、自分の野心までも打ち明けた。隠すことで悲しませたくなかったから。

そのときの彼女の反応は予想外だった。嫌な顔もせずに受け入れてくれたのだ。

一緒に幸せになろうと……自分でも戸惑う程嬉しくて、香子への愛情は高まるばかりだった。ただどうしても、彼女との結婚の経緯だけは話せなかった。



家庭は円満だが問題が発生していた。

いつだって、香子が気になって仕方ないのだ。

ある日、仕事中の香子の顔をどうしても見てみたくなり、無理やり用を作って総務のフロアに行ってみた。

さり気なく香子の席に視線を遣った俺は、眉を顰めた。

香子と同年代と思われる男性社員が、彼女の側に居て会話をしている。

それだけなら良かったが、一瞬見せた男の目があまりにも鋭く、ただの同僚とは思えなかったからだ。

男は香子から目を離さない。その様子は執着しているかのようにも受け取れる。


あの男と……どんな関係なんだ?

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