初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「あの、そもそもどうして桜川さんと仲良くなったの?」

私の発言に両親は目を丸くした。

「知らないの?」

「知らないけど」

「香子は本当にぼんやりしているんだから。そういう質問はもっと前にするべきでしょ。こっちはとっくに話したつもりでいたわよ」

お母さんは頬に手を添えて、溜息を吐くけど、落胆しているのは私の方だ。

さっきから柊哉さんの前だと言うのに、変なところばかり見せてしまっているのだもの。

「聞くのが遅いのは分かったから。それより桜川家とはどうやって親しくなったの?」

早口で問うと、お母さんは手にしていた菜箸をそっと置いた。

「昔、お義父さま……香子のお祖父さまが若い頃に桜川家との交流が始まったのよ。お義父さまと柊哉さんのお祖父さまの気が合ったみたいで、それ以来縁が続いているわ」

「個人的に親しい友達だったってこと? それで今もうちを気遣ってくれているのね」

私の祖父は五年前に亡くなっている。それなのにまだ桐ケ谷家との縁を大切にしてくれているなんて、柊哉さんのお祖父さまは情に熱い人なんだ。

「昔の友情を忘れずに桐ヶ谷家の窮状を助けてくれて……柊哉さんのお祖父さまは凄い人ね」

柊哉さんに視線を向けると、彼は「いや」と小さく首を振った。

「友情もあるが、桜川家は桐ヶ谷家に恩があるんだ」

「恩?」

「過去、桜川家の経営危機の際、桐ケ谷家が手を差し伸べてくれたんだ。おかげで今も会社は存続している。祖父は昔受けた恩を返す為に、今回援助を申し入れたんだ」

お互い様なのだから、恐縮する必要なんてないんだよ。と柊哉さんは優しく言う。

私たち家族が引け目を感じずに済むように言ってくれたんだと、彼の思いやりに心が温かくなる。

同時に驚きもしていた。

過去とはいえ、うちに桜川家を援助する程の力があったとは。

祖父たちが若い頃と言うから多分、五十年くらい前? 当時の桐ケ谷家はかなり頑張っていたんだ。

その後、怒涛の勢いで桜川家に追いつかれ、追い抜かれたのだろうけど。

しみじみ今の状況を考えていると、お母さんの声がした。
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