初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~
「香子、柊哉さんはこう言ってくれているけど、感謝の気持ちは忘れてはだめよ」
「もちろん、分かってます」

明日は桜川本家に挨拶に行く。柊哉さんの妻としてしっかり振舞わなくては。

それから話題を変え、美味しいお肉を堪能した。

両親と柊哉さんは終始和やかに会話を交わす。そんな光景を幸せだと感じた。

帰り道は、徒歩十分程の駅に出てタクシーを拾い自宅に帰る。

雪は降っていないけれど凍えるような冷たい風が吹きつけてくる。

ぶるっと体を震わすと、柊哉さんに肩を抱き寄せられた。

「大丈夫?」

体を寄せ合い彼の体温を感じると、寒さなんて気にならなくなる。

「うん……ねえ柊哉さん、今日はありがとうね。両親がとても喜んでた。でも柊哉さんは疲れたでしょう?」

楽しそうに過ごしていたように見えたけど、気疲れしているはず。

「疲れてなんていない。香子の実家は居心地が良かった」

「本当? 嬉しい」

柊哉さんと両親の関係が良好なのは、良いことだ。私も桜川家に馴染めるよう努力しないと。
そうなれば柊哉さんも安心出来るだろうし。

「このまま初詣に行こうか」

柊哉さんが腕時計に視線を落としながら問いかけて来た。

私は胸の高鳴りを覚えながら、「行きたい!」と彼の手を掴む。

「混んでるけど大丈夫か?」

「手を繋いでたら平気。どこの神社に行く?」

「マンションの近くの神社。あそこなら知り合いに会わなそうだろ?」

「あ……そうだった」

浮かれて人目を気にしなくてはならない立場だと言うことを忘れていた。

柊哉さんが言う神社は非常にこじんまりしていて、見どころはない場所だ。

「嫌か?」

「ううん、どこでもいい。ふたりで行くのに意味があるんだから」

柊哉さんは柔らかく微笑み私を更に自分の身体に引き寄せる。

冬の夜の町をふたりで歩く。

ただそれだけなのに、柊哉さんが好きだと思う気持ちが湧き上がる。

こうしてふたり並んで歩けることが、幸せで満たされる。

神様に感謝してお祈りしよう。素敵な旦那様と巡り合った幸せを。これからも一緒に居られますようにと。
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