クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
第一章 息もできないほどの再会後に
 ホテルスタッフにドアを開けてもらい会場の外に出れば、ホッと一息吐くのと同時に足に力を入れエレベーターを目指す。

 十五階にある会場はガラス張りで天井も高く、そこから見る夜景はとても素敵なものだった。さすがは一流ホテル『グローサーケーニヒ』。

 景色だけではなくサービス、料理共に文句なしで、プライベートで訪れたのならもう少し堪能できたのかもしれない。

……逆にプライベートなら訪れる機会はまずないか。

 一瞬足を止め、心の中で自分にツッコむ。このホテルで結婚式を挙げるのも、芸能人をはじめとする著名人や財界人といった一部の限られている人間だ。

 私、谷川(たにがわ)汐里(しおり)がここにいるのは仕事の一環でだった。新卒で就職した『株式会社voll(フォル)』は社員数百人ほどのわりと大きな食品会社で、勤めて早五年。

 新卒で入社した私は、今年で二十七歳になる。

 毎年開催される会社の創立記念パーティーは、決まって七月初旬。六月に行われる株主総会を()て、その報告と共に新役員の顔ぶれが披露される場にもなっている。

 部署に関係なく社員が一堂に会す貴重な機会でもあり、私みたいな下っ端社員には誰が役員になってもほぼ関係ないけれど、交流会として社員への(ねぎら)いもかねたこの催しはなかなか(いき)だとは思う。

 なのに、今日はどうも調子が優れない。顔色の悪さを誤魔化すためにファンデーションはいつもより厚めに塗ったけれど、今の格好との釣りあい的には違和感はないかな。

 どちらかといえば年齢より下に見られるのが多く、童顔というよりいつまでも垢抜けない雰囲気が原因なのかも。おっとりしてそう、なんて印象を抱かれるのはいいのか、悪いのか。
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