クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 私も遠慮がちにあまり人の集まっていないところに移動して水槽の中を見た。 

 隣の水槽と繋がっていそうに見えて、種類や生態によって分けられている。そして区切られた一つ一つの水槽はどれも特徴的だった。

 定番の水草ではなくカラフルな花のようなもので彩られていたり、隣は魚が休む場所としてポストや公衆電話のオブジェが置かれている。まさにアートだ。

 各テーブルによって見える水槽が異なる仕組みなのは、ここに何度来ても飽きがないように、工夫しているんだ。

 亮らしいな。

「楽しんでいらっしゃるかな?」

 自分に声をかけられたと、すぐには気づかなかった。きょろきょろと首を動かせば右斜め後ろに紳士的な笑みを浮かべたスーツ姿の男性が立っている。

 おおよそ五十代後半か六十代か。白髪交じりの髪はきっちりと整えられ、がっしりとした体形に、口髭とあごひげは下品にならず、むしろ彼の貫禄(かんろく)を表していた。

 顔に見覚えはないが、どこかの重鎮(じゅうちん)か。彼のような雰囲気の人間は今日、このレストランには溢れている。

 私素直に頷いた。

「はい。どの水槽も趣向(しゅこう)()らしていて、いつまでも見ていられます」

「それはいい。お客様に楽しんでもらえるのが一番だ」

 男性の発言に私はすかさず付け足す。

「あ、でも人だけじゃなくて中の魚のこともすごく考えて作られているのが伝わります」

 わずかに目を見開いた彼に対し、私は勢いよく先を続ける。
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