クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 まるで花嫁だ。その考えが過ぎって、胸がチクリと痛む。

 桑名さんは慣れた様子で物怖じもせず自分よりも年上の人たちと会話している。彼女もやっぱり亮と同じ世界に生きる人間なんだろうな。

 帰りたい気持ちが一気に押し寄せてきて、食事にもほぼ手を付けていなかった私は手持ち無沙汰(ぶさた)になった。とはいえ食欲もない。

 私は改めて水槽に意識を向ける。亮のコーディネートしたこの会場に足を運べただけで幸せだったし、十分な意義があった。

 どうしようかと立ちすくんでいると「ご歓談中だとは思いますが……」とアナウンスが入る。

 ホテルのオーナーから今回のレストランの改装にあたりとくにお世話になった各社の代表者に一言ずついただくという旨が話された。

 数名が壇上並ぶが、男性がほとんどだった。一番端に亮の姿もあり、私は緊張した面持ちで遠目に見守る。

 さらに先ほど私に声をかけてきだ男性が亮の隣に立っていて驚きが隠せない。

 やっぱり関係者の方だったんだ。

 順番にリニューアルオープンのお祝いの言葉とそれぞれの視点でのレストランの見所やこだわりなどが語られ、自社の紹介がなされる。

 そして亮の手前の男性の番になったとき、彼がクワナ工業株式会社の社長であると聞かされて私は自分の耳を疑った。

 つまり彼が桑名さんのお父さんで、娘の桑名さんと亮との結婚を希望しているという……。
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